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会社で統合報告書・サステナビリティレポートをつくることになったら -それぞれの概要や特徴、制作前に抑えておきたいポイントを解説-

もしも会社で統合報告書・サステナビリティレポートを作ることになったら… それぞれの概要や特徴、制作の際に役立つポイントを解説


はじめに


みなさんは、自社の統合報告書やサステナビリティレポートを読んだことがありますか?

「統合報告書」や「サステナビリティレポート」の制作を担当することになった際に、「そもそも統合報告書やサステナビリティレポートとは何か?」と疑問に思ったり、「当社でも作成していたの?」と感じたりする方もいるかもしれません。

また、すでに制作経験がある方の中にも、「もっと良い報告書を作りたい」「より効果的に作成するにはどうすればいいのか」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか。これらのレポートは、それぞれ目的やターゲットが異なり、制作を担当する部署やチームによってアプローチが変わるのが特徴です。

本コラムでは、統合報告書とサステナビリティレポートの違いや、それぞれの特徴を基本的な視点から分かりやすく解説します。さらに、実際に制作する際に役立つポイントについてもご紹介します。



統合報告書とは?


統合報告書の「統合」とは何を示すのか?

企業には、外部とのコミュニケーションを担う「企業広報」という部署があります。

企業広報は、大きく分けて PR(Public Relations:一般広報) と IR(Investors Relations:投資家広報) の2つの領域があります。

その中で、統合報告書は IR資料の一つであり、非常に幅広いコンテンツを含むツールです。

主に上場企業が、投資家および株主向けに作成しています。


では、統合報告書の「統合」とは何を意味するのでしょうか?

従来、IR資料では企業や組織に投資を考えている方や株主向けに 「財務情報」 を発信してきました。主な発信方法として、以下のようなものがあります。


1.法定開示(会社法や金融商品取引法に準拠)

・「決算短信」「招集通知」「有価証券報告書」 など

2.任意開示(法律や規則にとらわれない情報開示)

・「株主通信」「アニュアルレポート」

・ESGの観点から「CSRレポート」「サステナビリティレポート」

・IRサイト、個人投資家説明会 など


近年では、財務情報だけでなく「非財務情報」も重視されるようになっています。

これには、 ESG(環境・社会・ガバナンス)情報や企業の長期的な成長戦略などが含まれます。

つまり、財務情報と非財務情報を統合したものが「統合報告書」です。

また、「統合」という言葉には、企業がこれまで作成してきた様々なIR関連資料を一本化するという意味も含まれています。

したがって、統合報告書は従来の情報開示の延長線上にあるものと考えられます。


メインターゲットは「投資家」ですが

統合報告書の主な読者は、企業に株式や債券などの形で投資をする「機関投資家」です。

機関投資家とは、金融機関や年金基金などの「プロの投資家」のことで、個人投資家とは異なり、一度に何万株もの大口投資を行います。

彼らに対して、企業の価値や将来のビジョンを伝え、投資判断を促すための情報発信することが統合報告書の大きな役割です。

また近年では、統合報告書が個人投資家にも広く読まれるようになっています。

特に、日本経済新聞が主催する「日経統合報告書アワード」などの影響で、その知名度が向上しています。

さらに、上場企業への就職を目指す就活生にとっても、統合報告書は 企業研究の有益なツールとなっています。

企業の公式サイトは情報が多岐にわたるため、企業価値や経営戦略が一冊にまとまった統合報告書は、複数の企業を比較する際に非常に便利な資料となるからです。

また、少子高齢化が進む中、多くの企業が優秀な人材の確保を重要視しています。

そのため、統合報告書が採用活動の一環としての役割を持つケースも増えています。企業の価値や将来性を学生やその家族に伝えることで、企業と就活生の接点を生み出すツールとしても活用されているのです。



統合報告書のガイドライン


海外と国内の主な2つのガイドライン

企業が統合報告書を作成する際、原則としては「任意開示」であるため、どのようなコンテンツを盛り込むかは自由です。

しかし、投資家が企業価値を判断し、投資の意思決定を行うための重要な資料であることを考えると、情報の比較可能性、網羅性、透明性、明確性 などが求められます。

2010年代以降、投資環境の公平性を確保するために、統合報告書にも一定のガイドラインを策定する必要性が高まりました。

本章では、海外および国内で広く参照されている2つの主要なガイドラインを紹介します。


1.国際統合報告(IR)フレームワーク(IIRC)

海外では、国際統合報告評議会(IIRC:International Integrated Reporting Council) によって、2021年に「国際統合報告(IR)フレームワーク」の改定版が策定されました。

このフレームワークは、企業の「価値創造プロセス」を財務情報と非財務情報を統合して説明することを目的としており、特にグローバルな投資家や市場を対象としている点が特徴です。

そのため、海外展開を積極的に進める企業に適した指針となっています。


国際統合報告(IR)フレームワークの5つの特徴

①価値創造プロセスの明確化

企業が持続可能な価値をどのように生み出しているのかを、財務情報と非財務情報を統合して説明することを求めています。

②6つの資本(Six Capitals)

企業の価値創造プロセスを以下の6つの資本に基づいて分析することが推奨されています。

・財務資本(Financial Capital)

・製造資本(Manufactured Capital)

・知的資本(Intellectual Capital)

・人的資本(Human Capital)

・社会・関係資本(Social and Relationship Capital)

・自然資本(Natural Capital)

③未来志向

過去の業績だけでなく、未来のリスクや機会、持続可能な成長に向けた戦略を示すことを求めています。

④統合的思考(Integrated Thinking)

財務情報と非財務情報を統合的に考慮し、経営戦略や意思決定に活かすことを推奨しています。

⑤主要原則と内容要素

信頼性、透明性、利害関係者との関与などの基本原則に加え、組織概要、ガバナンス、ビジネスモデル、リスク、戦略など、報告書に含めるべき主要要素が明示されています。


2.経済産業省「価値協創ガイダンス」

日本では、国際統合報告(IR)フレームワークを参考にしつつ、より柔軟な解釈のもとで「日本独自のガイダンス」を策定する動きがありました。

その結果、経済産業省が2017年に「価値協創ガイダンス」を発表し、2022年8月には最新版となる「価値協創ガイダンス2.0」が公表されました。

このガイダンスは、日本企業が持つ「協創(Co-creation)」の文化や価値観を反映し、企業とステークホルダー(投資家・社会)との間で価値創造の対話を深めることを目的としています。


「価値協創ガイダンス2.0」の特徴

本ガイダンスの構成要素は、経済産業省の公式サイトに掲載されています。

※参考:企業と投資家の対話のための「価値協創ガイダンス 2.0」(価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス 2.0 - サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)実現のための価値創造ストーリーの協創 - )- 経済産業省


主な構成要素は以下の通りです。

・価値観

・長期戦略(長期ビジョン、ビジネスモデル、リスクと機会)

・実行戦略(中期経営戦略など)

・成果と重要な成果指標(KPI)

・ガバナンス


また、投資家との「実質的な対話・エンゲージメント」を重視している点が特徴です。

国際統合報告(IR)フレームワークが一定の標準化を求め、特定の原則や内容要素の遵守を求めるのに対し、価値協創ガイダンス2.0は「報告内容や形式に強制力を持たず、各企業が自社の特性や状況に応じて柔軟に活用できる設計」 となっているのが大きな違いです。



サステナビリティレポートとは?


サステナビリティレポートの重要性 -統合報告書だけが情報開示の手段ではない-

これまで統合報告書について解説してきましたが、すべての企業が統合報告書を発行するわけではありません。

特に未上場企業や、上場していても統合報告書のガイドラインを満たし、投資家との対話の仕組みを整理することが難しいと感じる企業も少なくありません。

実際、そのような企業の方が多数を占めるのではないでしょうか。

しかし、社会との関わりはすべての企業にとって不可欠です。

金融機関や私募ファンドなどの資金提供者に自社の価値を説明する機会もありますし、就活生やその家族に企業の魅力を伝え、入社のきっかけを作ることも大切です。

また、社会環境が大きく変化する中で、自社の成長戦略や価値創造のプロセスを整理したいと考える企業も多いでしょう。

こうした背景から、投資家向けの視点だけにとらわれず、幅広いステークホルダーに向けて情報を開示したい企業の間で、「サステナビリティレポート」の発行が増えています。

本章では、その基本的な役割や活用方法について解説します。


読者は「すべてのステークホルダー」

企業が社会と関わる以上、その対象となる「ステークホルダー(利害関係者)」の存在は不可欠です。

統合報告書は主に投資家を対象としていますが、サステナビリティレポートの読者は、企業活動に関わるあらゆるステークホルダーを想定しています。


具体的には、以下のような関係者が該当します。

・株主・投資家

・従業員およびその家族

・顧客(消費者)

・地域社会(コミュニティ)

・サプライヤー・取引先・協力会社

・政府・規制当局・地方自治体

・環境団体・NGO

・メディア

・金融機関

・教育機関や就職希望者(将来の従業員)


ステークホルダーの関心に応じた情報を開示することで、企業の社会的責任(CSR)や持続可能性に関する取り組みを的確に伝えることができます。


ESGを「戦略」として位置付ける

サステナビリティレポートには、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)に関する取り組みをまとめる役割があります。

ただし、いきなりサステナビリティレポートを作成するのではなく、すでに自社サイトの「サステナビリティページ」や「CSRレポート」として情報を開示している企業も多いでしょう。

しかし、ウェブサイト上では情報が分散しがちで、閲覧者は自分に関係のある部分しか見ない傾向があります。

そのため、ESGの取り組みを「レポート」という形にまとめ、戦略的に発信することで、企業の価値をより明確に伝えられるのです。

また、サステナビリティレポートは、将来的に統合報告書を作成するためのステップとして活用する企業も増えています。

すでに統合報告書を発行している企業でも、統合報告書だけでは伝えきれないESG情報を補完するために、サステナビリティレポートを発行するケースもあります。

どのような形で活用するかは、企業の方針や目的に応じて検討する必要があります。


サステナビリティレポートのガイドライン

サステナビリティレポートにも、いくつかの主要なガイドラインが存在します。

ただし、すべてのガイドラインに沿って情報を開示しようとすると、膨大な要求開示項目に対し自社の情報を整理することに非常に大きな負荷がかかるため、「どのステークホルダーを重視するのか」「ガイドラインの対象市場や読者層はどこか」 を明確にしたうえで、適切な指針を選定することが重要です。


主なガイドライン

・GRIスタンダード(Global Reporting Initiative Standards)

 サステナビリティ報告の国際標準であり、多くの企業が採用

・SASB基準(Sustainability Accounting Standards Board Standards)

 業種ごとのESG開示基準を定めるフレームワーク

・国際統合報告フレームワーク(International Integrated Reporting Framework)

 財務・非財務情報を統合した報告基準

・CDP(Carbon Disclosure Project)

 気候変動や水資源管理に関する情報開示の枠組み

・ISO 26000

 社会的責任(CSR)に関する国際規格

・SDGs(持続可能な開発目標)報告

 企業のサステナビリティ活動をSDGsの枠組みに基づいて開示

各ガイドラインの特性を理解し、企業の目的やステークホルダーのニーズに最適なものを選択することが求められます。



報告書(レポート)制作前に抑えておきたいポイント


ここまでは、統合報告書とサステナビリティレポートそれぞれの特徴を紹介してきました。

統合報告書やサステナビリティレポートの概要を理解したものの、いざ制作に取りかかる際に、「何から手をつけるべきか」「前回制作時の課題をどう活かすか」「自分が果たすべき役割は何か」 など、不安に感じることも多いのではないでしょうか。

そこで、「制作前」の観点から、スムーズな制作を進めるためのポイントを簡単にご紹介します。


1. 制作の主要メンバーと役割分担を明確にする

まず、制作に関わる主要メンバーと最終決定者を確認し、それぞれの役割を明確にしましょう。

「外部協力先との窓口担当」「情報収集」「CEO・役員との連携」「原稿作成・チェック」など、制作プロセスの中で社内で誰が何を担当するのかを事前に決めておくことで、後の進行がスムーズになります。


【外部協力先窓口の管理】

外部協力先(制作会社やコンサルティング会社など)との窓口は社内で一元化することを推奨します。

情報は社内の複数の部署から集める必要がありますが、外部とのやり取りは可能な限り1つの窓口に統一すると、情報の管理がしやすくなります。

社内のどの部署がどの情報をどこまで開示しているのかを把握することは、情報の一貫性を保ち、適切な情報開示を行ううえで非常に重要です。

可能であれば、外部との窓口担当者は1名にするのが理想です。また、その際には窓口担当者の方が外部と社内との単なる情報伝達役にとどまらず、会社の意思を正しく伝えられる立場であることが望ましいでしょう。

もちろん、社内ではプロジェクトチームを結成し、複数の社内担当者と一緒にプロジェクトを進めることは問題ありません。

しかしながら、複数の担当者がそれぞれ外部協力先と連絡を図ると、社内で意見の集約が取れないまま外部と連絡をおこなうことで、状況によってバラバラな情報が伝達され、ダブルスタンダードな状態が発生して混乱が起きうることもあり、最終的には社内・外部それぞれの負荷が増えてしまう可能性があります。


2.報告書の「ストーリー」「ターゲット」「ゴール」を明確にする

報告書で伝えたいストーリー、ターゲット、最終的なゴール を制作担当者間で共有しましょう。特に、最終決定者を含めて共通認識を持つことが重要です。


3.コンサルティング会社・制作会社との認識合わせ

2.で定めた「ストーリー」「ターゲット」「ゴール」をもとに、コンサルティング会社や制作会社と報告書の完成形のイメージを共有し、今回の「テーマ」を決定します。


4.「テーマ」に基づく具体的な計画策定

テーマが決まったら、以下の3点を明確にします。

①掲載する内容の決定

 どの情報を載せるのかを具体的に整理

②ビジュアルの方向性を決定

 報告書全体のデザインコンセプトを定める

③発信方法・発信時期の確定

 印刷物・Web公開などの配信手段や公開スケジュールを決める

全体のスケジュールを作成し、関係者間で確認・合意を取ります。


5.「掲載する内容」をもとに最終調整を行う

①掲載内容とストーリーの整合性を確認

 すべての情報がストーリーに沿っているか、過不足がないかを検討

②ページ構成案の作成

 情報の流れやボリュームを整理し、関係者と共有

③情報収集の担当者を特定

 コンテンツに応じて掲載する原稿や掲載内容のチェックを依頼する部署とのやり取りをおこなう担当者を明確にする

④コンテンツ制作の分担を決定

 原稿作成・レイアウト・デザイン作業を外注するのか、社内で対応するのかを決め、予算感を確認


特に5.-④の「コンテンツ制作の分担」 までが決まると、その後の制作フローは比較的スムーズに進みます。


この1.~5.の準備期間が十分に確保できれば、議論が深まり、関係者間の認識も統一されやすくなります。

「ストーリー」「ターゲット」「ゴール」を制作に関わる全員が共有できれば、最終的に質の高い報告書が完成するでしょう。



統合報告書やサステナビリティレポートの制作に携わるメリット


統合報告書やサステナビリティレポートの制作に関わることが、担当者の方にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?

例えば、普段接点のない役員の方の考えを直接聞ける機会が得られるなど、レポート制作を通じて貴重な経験があるかと思います。


会社の価値を「ひとつにまとめる」作業を通じて得られるものや、制作を進めていく中で、会社の全体像や将来像を改めて見つめ、自社の立ち位置を再認識する機会が生まれます。

また、これまで関わりのなかった部署や外部協力先と連携しながら業務を進めることで、新たな視点から会社の魅力を発見するきっかけとなるでしょう。


制作期間中は、スケジュール調整や原稿整理に追われ、忙しく感じることも多いかもしれません。

しかし、その過程で会社の多様な事業や活動に触れ、理解を深めることで、自社の価値や強みをより深く実感できるようになるはずです。


本コラムの冒頭で、「みなさんは自社の統合報告書やサステナビリティレポートを読まれたことがありますか?」と問いかけました。

制作を終えた後に、改めて完成したレポートを手に取り、自社の価値をどのように伝えることができたのか、改めてじっくり読んでみてください。

新たな気づきが得られるかもしれません。




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