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POSTED : 2020.09.01

【IR担当者向け】財務翻訳で事前に定めておくべき7つのスタイル項目

【IR担当者向け】財務翻訳で事前に定めておくべき7つのスタイル項目

「¥100 million」と「100 million yen」。
どちらも同じ「1億円」を意味する表現ですが、これらの表記が章ごとに混在し、全体を通じて統一が図れていない決算短信や有価証券報告書をしばしば見受けます。

 

こうした表記のバラツキは、読み手である株主や投資家に違和感を与え、読みづらい印象を抱かせます。表記のゆれをなくし、同じスタイルで記載をした文書の方が、読み手の負担も減り、分かりやすいものになるはずです。

 

今回は、こうした英文の開示文書における表記ゆれについて、その発生原因から、基本的な英文表記ルール(スタイルガイド)づくりのポイントについて解説します。

 

なぜ同じ財務文書内で表記ゆれが生まれてしまうのか?

 

財務文書における表記ゆれは2つの原因が考えられます。

 

ひとつは編集者と翻訳者の間で事前のすり合わせが十分に行われず、それぞれの翻訳者が独自でスタイル(表記)について判断をして作成していく場合です。限られた納期内でボリュームの大きな文書を翻訳するとき、翻訳を複数の作業者で手分けすることは一般的ですが、それぞれの翻訳者が独自で判断をしてしまうと、こうした表記ゆれが生じる原因となります。

 

特に、決算短信、有価証券報告書などの法定開示文書は、限られた期日内で開示する必要があるため、翻訳者を分けて作業をすることはよくあります。表記に関するルールを事前に取り決めをしておかないと、最終的に取りまとめを行うときに、バラバラな表記のものが出来上がってしまいます。

 

2つめの原因として、過去の翻訳された文書を元に部分的なアップデートがなされる財務翻訳特有の性質が挙げられます。財務翻訳はその性質上、過去の開示文書をもとに情報を更新していくのが一般的です。新たに内容が加えられた個所や文言の修正があった箇所のみ翻訳を行い、英文にも修正が加えられていきます。そうした際も、統一された表記ルールがないと、翻訳者は自分に馴染みのあるスタイルで翻訳を進めていきます。その結果、新たに翻訳された訳文と過去の既存訳と間に不整合が生じてしまうのです。

 

それでは、こうした表記の揺らぎは、一体どのように抑止していけばよいのでしょうか。

 

基本的な翻訳ルール(スタイルガイド)を定めて作業者に共有しよう

 

当社では、こうした表記のゆれを防止するため、翻訳における基本的なルールを定め、翻訳者やチェッカーなど作業者に共有することをお勧めしています。

 

翻訳におけるルールを定めることにより、同一文書内のみならず、異なるドキュメント間(たとえば、決算短信とアニュアルレポートなど)の表記も統一が図られるようになります。企業が公開するディスクロージャー情報について比較がしやすくなるため、投資家にとってもメリットが得られるはずです。

 

ここで定めるルールについては、フォントなど細かなところまで設定する企業もありますが、今回は、財務翻訳において最低限押さえておくべき基本的な項目について紹介していきます。

 

財務翻訳で事前に定めておくべき7つのスタイル項目

 

1.通貨単位

  • 通過単位はスペルアウトするか、通貨記号を使用するか。(例:10 million yen¥10 million)
  • 日本国内ではどちらも使用されていますが、海外の会計報告においては通貨記号を用いる表記が一般的です。
  • この時、「ドル」など複数の国で使用されている通貨単位については注意が必要です。一般的に「ドル」は「米ドル」を指しますが、取引環境によっては、香港ドル、台湾ドル、カナダドル、オーストラリアドル、ニュージーランドドルなど通貨についても明確に識別する必要があります。その場合、「US$」や「HK$」などドル区分を明確にしておきます。
  • 「billion」など桁数が大きな金額の小数点表記については、小数点何桁まで表示するのかもルール化しておくと、統一性が図れます。

 

2.数値/序数

  • 文章中で用いられる数値は、1~10まではスペルアウトとし、11以上の数値はアラビア数字で表記するのが一般的です。(例:four principles/12 organizations)
  • 序数についても、文章中では1~10まではスペルアウトし、11以上はアラビア数値で表記します。(例:third quarter/11th period)
  • 例外として、金額の表記については、文章中であっても常にアラビア数字で表記するのが財務文書では一般的です。(例 ¥4 million/¥40 billion)

 

3.会計年度

  • 会計年度の表記については、スペルアウトをするか省略系を用いるのかルール決めしましょう。(例:fiscal 2020/fiscal year 2020/FY2020)
  • 財務諸表のようにスペースが限られた表中においてのみ省略系を用いるなど例外を持たせても構いません。ただし、その場合も本文はスペルアウト/表中・グラフは省略系など、文書全体における表記ルールは統一するのが良いでしょう。

 

4.日付

  • 日付については仕向け値が米国か欧州かによって、アメリカ英語/イギリス英語のどちらを採用するか変わってきます。
  • 表記方法の違いについては以下をご参照ください。

例)

アメリカ英語イギリス英語
年月日January 1, 20201 January 2020
年月January 2020January 2020
  • また、招集通知の役員選任案の略歴など、表中のスペースが限られている箇所では、月名を省略形で表記した方が可読性が高まります。(例:Jan. 2020

 

5.番号(階層づけ)

  • ナンバリングにおける階層づけについても、表記ルールを統一することでどの階層の情報について記されているのか理解を手助けしてくれます。
和文英文
第1階層1. 2. 3.1. 2. 3.
第2階層(1)(2)(3)(1) (2) (3)
第3階層① ② ③i) ii) iii)

6.「当社」/「当社グループ」の表記方法

  • 「当社」/「当社グループ」という表現をよく使用しますが、英文においては①「the Company」/「the Group」と翻訳する場合と、②会社名をそのまま用いて翻訳する場合があります。
  • 「the Company」/「the Group」を用いる場合には、本文中で初出時に定義するのが一般的です。(例:Orange Co., Ltd.(the “Company”))

 

7.勘定科目

  • 勘定科目については、毎年、金融庁が公表している「EDINETタクソノミ用語集」に合わせるようルール化するのが一般的です。
  • タクソノミで定義されている勘定科目以外のものを使用する場合には、その勘定科目の定訳を用語集に定め、翻訳者やチェッカーに共有する必要があります。
  • タクソノミ自体は毎年、更新されるものとなるため、更新時期に合わせ、自社で使用する勘定科目の定訳について確認するとよいでしょう。

 

まとめ

 

今回は、財務文書における表記ゆれの原因と、それ予防するためのスタイルガイド作成について検討すべきポイントを解説しました。前述のとおり、翻訳における表記ルールが定められていないと、記述がバラバラの読みにくい文書が完成してしまいます。通貨単位・会計年度・数値・日付表記など、財務報告における基本的な項目からルール決めするだけでも品質は変わってくるはずです。

まずは、自社の発行している決算短信や有価証券報告書の英訳が、ちゃんと表記統一が図られているか確認をしてみると良いかもしれませんね。

 



オレンジ社では、財務翻訳・IRコミュニケーションサービスを提供しています。
詳細については、以下のページもご覧ください。

 

 

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